漫画『花と頬』の空気感に心底惚れる

最近、購入した『花と頬』(イトイ圭 著、白泉社、2019年)という漫画の話をしよう。
内容は主に高校生の話、というと大分物語のイメージと乖離してしまう気がする。音楽が好きな人、そしてバンドを好きになり、人間まで好きになってしまった音楽ファンにもおすすめだ。読むとなんかちょっと抉られる。心の形が変わる作品は良い作品だと思う。

出会いは古書店街をふらふら歩いていたときだった。この街には古書店だけでなく、新刊を取り扱う大型の本屋や、ちょっと趣の変わった本屋も建ち並んでいる。そのなかの新刊を扱う書店へ入ってみたのだ。そこでこの漫画が試し読みが出来るようになっていたのである。表紙に惹かれ手に取った。
時間が溶けて消失したように夢中で読んでしまった。作品のなかに流れる空気感がたまらなかった。日が沈んだ後の夜の匂いのような、あるいは日陰から眺める昼下がりの海のような、そんな景色の中にいる感覚になった。
その後、街をぷらぷらしていても、『花と頬』のことが頭から離れなかった。手元に置いておきたい本だ、と確信し、気づけば購入していた次第である。

読んで色々考えてしまった。考える余地やすきま、空白がある作品は好きだなあと思った。あと、これは個人的に感じたことでしかないが、この作品は直接分かりやすい描写ではなく、ああ、そういうことか! と読み進める度に状況が重なって立体的になるのが面白かった。そして今まで、音楽世界のこういう部分を舞台にした作品を読んだことがなかったので、それも新鮮で面白かった。

アーティストとファンには、例え最前で聴いていようが、その間にはある種の分厚い壁が存在する。血縁や友人や知り合いという関係性を持たない人間が、アーティストの壁の中に入ることは出来ない。だけど、ひとたびその道を繋いでくれる人と出会うと、ひょいと不可侵だった壁の内側に行けてしまうことがある、そんなことを思った。あるいは、その有名な人の友達は、その有名な人を友達としか見ていなくて、外側からはあの人はすごい人だ、という評価を受けていても、やはり友達でしかない感覚、そんなことを考えた。
まあ、でも、ファンはファンの距離感だから楽しいんだよな、というのは余談である。

『花と頬』、味わい深い漫画だ。これから何度も何度も読み返しては、きっとその度にそういうことだったのか! みたいな発見があると思う。

【今日の曲】
スピッツ「冷たい頬」『フェイクファー』(1998年)
ASIAN KUNG-FU GENERATION「鵠沼サーフ」『サーフ ブンガク カマクラ』(2008年)
フジファブリック「星降る夜になったら(Live)」『Hello!! BOYS & GIRLS HALL TOUR 2015 at 日比谷野音』(2016年)

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