前回、「期待値が高いとロクなことがない」という話を書いた。
一方で、ふとした瞬間、人生最大級のご褒美がもらえることもある。今日はそんなお話を綴ろう。
最前席のチケットを手に入れたとき
色々ライブに行っていると、ごくごく稀にとんでもない幸運に出会うことがある。そのひとつが最前席、最前列だ。最前席とは、文字通り、一番前の列にある席だ。ステージと彼らを隔てるものはなにもない。あるいは柵がひとつあるだけだ。
ホールの最前席は何気なく私の手元にやって来た。
そろそろ最速先行で申し込んだチケットを発券しようと、コンビニへ寄る。ぽちぽち機械を操作し、店員さんに発行してもらった。その間、私は特に何も考えてなかった。どこらへんだろ〜と家に帰って座席表を確認してみる。目を疑った。最前だ?
ああ、最前って存在するんだ、当たることってあるんだと思った。それも番号を見れば、結構真ん中で、こんなことってあるんだなあと思った。最速先行と言っても、ファンクラブ会員申し込みとかではなく、オフィシャルサイトから誰でも申し込むことのできる抽選だったのである。
そしてホールには、椅子があり、自分の席が決まっている。よってライブハウスのように押されることもない環境なのだ。
最前の景色
最前の景色はどんなものだったか。
まるで映像みたい、という感想が第一に来る。しかし、映像よりも、視界の解像度が異常に高く、楽器の音がダイレクトに伝わる特等席だ。目の前に観客が誰もいない、というのはそれだけで景色が全く違うものなんだ、ということを知った。見えている世界は、彼らと、目の両端に他の観客がチラリと映るだけなのだ。
はじまる前、席を確認し、本当にここなんだ、この真ん中の席なんだと分かると、なんかもう顔が火照ってしょうがなかった。恥じらいみたいなものもちょっとあるし、緊張も興奮もある。同じ列の人たちが真顔だったり、わあわあ嬉しそうだったりしたのが印象的だった。私も誰かにはそう映ったのだろうか。
奇跡の時間は、本当にアッッッという間に終わる。もう、一瞬だ。いつものライブもアッという間だが、その3倍速の体感だ。夢みたいに記憶がフワフワしている。そして、身体の疲労感がずっしりだ。
目の前に誰もいないというだけで、演奏空間の一部にいるような、音楽のひとつになれたような、そんな感覚があった。マイクを通さない音が聴こえる。小さな動作が見える。音楽をはじめる瞬間が分かる。音楽を締める合図が分かる。目が合ったような気になる。ピックをポロポロ足元に放るのが見える。些細なやり取りが伝わる。目の前にバンドしかいないということは、オーディエンスの動作も目に入らない。振る舞いは、実は誰よりも自由になれるのだ。
ライブが始まる直前、ふっと後ろを振り返った。私の後ろには二千人がいた。上の階まで人はぎっしりだ。その一番前に私は座っているのだ。どんな確率やねん、呆然とした気持ちになった。
誰にも空間を邪魔されることのないホールでの最前は、紛うことなき幸運だ。沢山色んなライブ行ってると、良いこともあるんだなあと思た。ライブ自体がそもそも良いことで、加算で良いことが起こる、そんな日だったのだ。
しかし、ひとつ怖かったのが、たった2時間半、間近で音楽を味わうと、その時間のうちにその距離が当たり前、というかずっとこの時間が続くようなそんな感覚に陥ることだった。人は慣れる生き物なのだ。こんなんに慣れてはいけないと思った。これはごく稀の幸運なのだ。すごい経験をしたもんだ。
ホール公演自体の記事は、どういう雰囲気かが書いてある 「いよいよライブ会場に入場! 〜ホール編〜」をどうぞ。
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