今日は、十二国記『白銀の墟 玄の月』の感想を書く。4部作という大作の末に辿り着いたのは果たしてどこなのだろうか。
“2.以下、『白銀の墟 玄の月』の感想”からネタバレになるので注意して欲しい。
今までの記事振り返り
「だから十二国記は面白いと言っている『月の影 影の海』」
「考えれば考えるほど面白い十二国記の世界」
「考えれば考えるほど面白い十二国記の世界2」
と書いてきた。ようやく、最新作『白銀の墟 玄の月』に至ったのである。舞台となる戴国は冬の寒さ厳しい地だが、この作品もまた凍てつくような状況に耐え忍び賢明に生きるような物語だった。
以下、『白銀の墟 玄の月』の感想
今から、ネタバレを含む感想になるので未読の方は注意してほしい。
『白銀の墟 玄の月』は4部作と大長編だ。もう感情の緩急が激しすぎた。希望と落胆絶望が怒濤のように押し寄せて、夢中になって読みすすめた。泰麒と李斎が戴に入る前は未知で前途多難、どう踏破するのか想像もつかず途方に暮れるような気持ちで、そして、一緒に旅をしている気分だった。
読みながら思ったのは、大抵ヤベえのはマッドサイエンティストや好奇心探究心が強すぎる天才なんだとか、いやもうこれは無理では、泰麒が死ぬしかないのでは、とか色んな考えが過りながらページをめくった。そして、4部作のなかに随所に張り巡らされた糸が最後見事に収束していく感じに唸った。あの処刑の絶望感を、登場人物と共有していた気がする。一方、終幕の様子は、『月の影 影の海』の終わり方をすごく思い出した。これはただの個人的な欲望なのだが、いつものことながら解決編にあたる部分が、それまでの苦労に比べて短い。登場人物が報われる部分をもっと沢山見せてくれと懇願したくなる。平和さに飢えているのである。あと阿選を打つ場面がクライマックスになってもおかしくないのに、そこをあえて書かないというのも、らしいな、という気持ちになった。
しかし、本当に物語の大部分を覆っていた薄気味悪さにはゾッとした。その正体が分かると明快な気持ちになったが、喪ったものが多すぎる気がする。琅燦の存在は、今でも自分のなかで不思議な感じになっている。だから、通常の朝(あの世界の常態、通例)は黄朱を官吏として登用しないんだろうなあ、と思った。
他に、特に印象に残ったのは、正頼の不屈さだ。本当胸が痛い。話す言葉といい、キャラクターが鮮やかで、最後の英章との関係性には笑みが浮かぶ。泰麒のそばに仕えたいというのにも泣ける。
あと、驍宗様だ。何年間も暗い洞穴で過ごしたのは、そりゃ大変に決まっている。それはもちろん分かるんだけど、ひとりだけ洞窟のなかでお宝手に入れたり、生き物懐かせたりしてアドベンチャー感があるのはグッときた。我ながら謎のツボだ。彼が王である。民の祈りによって生きながらえていたのは、本当に泣けた。
やはり、考えれば考えるほど面白い。もっともっとたくさん十二国の世界が見たい。彼らがどんな国をつくり、生きていくのか読みたい。陽子、景麒と泰麒、李斎の再会の瞬間とか知りたい。
広大な物語だな、と思う。余人の想像を楽に耐え、色んな感情をくれる懐の深い大変面白い小説なのである。
十二国記の別の話については、以下にまとめた。
他にも、おすすめ小説のレビューは以下にあるので、もしよかったら覗いてみてほしい。
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