疲れているときに観たくなる映画『めがね』

のっけからタイトルを覆すようだが、別に疲れているときでなくてもいい。いつ見たってあの空気感にどっぷり浸ると大変心地よい。
この映画のことを思い出すと、ああまた観たいなあという気持ちが湧いてくる、そんな作品なのだ。

『めがね』は、美しい海や美味しそうなご飯、ゆったりとした時間を生きる人々の描写が天下一品な映画である。実写の邦画だ。
特に大きな事件が起こるわけでもなく、伏線に次ぐ伏線、大スペクタクル、衝撃のラストがあなたを襲う! みたいなのもない。
ただ、忙しなく生きていた様子の主人公が、島の時間に溶け込んでいくことを、丁寧に描写している、そんな作品なのだ。くすっと笑える場面もあって素敵だ。

なぜこうもこの映画に惹かれたのか。
空気感が最高なのだ。美しい海のそばに住む人々は、日々の生活をゆったり営んでいる。その様子を見るだけで、顔がほころぶ。気持ちが安らぐ。
心に残る場面はいくつもあったが、なかでも飛びっきり綺麗な海と、砂浜でマンドリンを爪弾くシーンは、私の価値観に多大な影響を与えている。あの場面には私の憧れが詰まっていると思った。
また、劇中でドイツ語の朗読が流れるシーンがあるのだが、翻訳を読んで、もう、なんというか、この作品に出会えてよかったなあと心底思った。押しつけがましい元気なメッセージもなく、ただ、穏やかに揺蕩う水のように流れる描写たちは、荒んだ心を柔らかく満たしてくれた。

私もいつか、綺麗な海辺のそばでのんびり暮らしたい。美しい朝日を、夕日を眺めて好きな音楽のそばで過ごしたい。
自分のなかにある、心象風景は、この映画のおかげでまたひとつ、素晴らしい世界を手に入れることができたと思う。
何も考えず、ただ安らぎたい瞬間が来たら、ぜひ手に取ってみて欲しい。きっと豊かな時間を過ごせることだろう。

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