途方に暮れたとき『ハッピーエンドは欲しくない』を読む

インターネットをあてどもなく彷徨っていると、たまに価値観をひっくり返されるような文章に出会うことがある。それは、多分、現実の本を読んでいても、なかなか出会うことのないようなタイプの文だと思う。フィクションという断りがあっても、随分と生々しく、そして現実味があるのだ。
手に取れる物理的な本になるまでには、さまざまな人の手を経ることが多い。もちろん自費出版という方法もあるが、大部分の書籍は「多くの人に読まれる」という視点が入っているのではないかと思う。そのため、固有名詞、例えば商品の名前などを綴るのも、気を遣うのではないかと想像する。多分そこにフィクションさが付随する。そんな気がするのだ。
一方でインターネットで出会う文は、そういう配慮がないことが多い。私たちの日常と密接に接続している感触がある。それはその人から出た生身そのものの文章だからなのではないだろうか。もちろん、色んな例外はあるだろうが。
そうやってネットの世界を漂流していると、インターネット文学とも言うべき、鮮烈な文章に出会うことがある。今回紹介するのはそんな物語だ。

そのタイトルは『ハッピーエンドは欲しくない』という。 Kindleで読むことの出来る文章で、著者はnという人だ。
この読み物に辿り着いたきっかけは、一時期はてな匿名ダイアリーを漁るのにハマったからであった。有象無象のなかにガツンと衝撃を与えられる文章がいくつもあった。なかでも強く印象に残っているのは、ホームレスになったが色々あって海外へ放浪の旅に出たプログラマーの話だった。「"Hello world!"の増田」がキーワードだ。この人物が、もっと濃縮された物語を綴ったのが、この『ハッピーエンドは欲しくない』なのである。
この物語を読んだとき、こんな世界もあるのか、と色んな感情が去来した。自分の穏やかで平凡な人生からは、想像だにしない過酷な世界が広がっていた。しかし、自分の世界がそうならないか、と問われれば、絶対にそうならないとは言えない、とも思うのだ。一方で、海外を放浪する旅行記の部分は、これまた見たことのないような景色を見せてもらえたような気がしてとても楽しかった。旅の話というものは、いつだって面白いのだ。文章からは異国の匂いがし、人々の営みを感じ、世界が広がっていく気がした。面白くて一気に読んでしまった。

インターネットは何かの垣根を取り去った。いや、もともと垣根なんて存在しない世界だったのかもしれない。この発明がどれほどすごいのか、ひしひし感じる日々である。

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