スピッツ『旅の途中』というバンドの物語を読んで

スピッツ『旅の途中』(幻冬舎、2007年)という本がある。バンド結成20周年記念として出版された本だ。内容を簡単に話すと、スピッツ結成前から2007年までを、メンバー4人がかわるがわる語るような構成になっている。装丁はハードカバーで、普通の小説くらいの厚さがある、しっかりした本だ。帯にはメンバーのサインが印刷されていて、可愛らしい。
今では絶版になっているようなので、なかなか手に取るのも難しいものだと思う。ただ、電子書籍が配信されているので、文章を読むことは可能だ。
この本を読む機会があったので、感想を書こうと思う。

スピッツのことは、音源を追う感じで好きなので、結成の経緯などは知らなかった。藤枝出身者がいることや芸術系の学校に通っていたということ程度の知識しか持っていなかったのである。
だから、スピッツがどうスピッツになったかという経緯を知ることが出来たのは、とても楽しかった。やっぱりバンドヒストリーを知ることが出来るのは楽しい。『FAB BOOK』というフジファブリックが詰まった本」や「くるりを知る楽しさ『くるりのこと』という本」の記事を書いたときにも思ったことだった。

自分にとってスピッツは、出会ったときからベテランバンドだった。だから、バンドとしての未熟さや様々な困難、課題にぶち当たって苦悩している姿が、なんだか意外、というか逆に新鮮に感じられた。でもそりゃそうなのだ。最初から完成されたバンドなどなく、どの人にも売れない時代があり下手っぴな時代があり、売れたあとでもなお対峙しないといけないものがあったのだ。
本書では、どうやって今のスピッツになっていったのか、高校卒業以降、それぞれメンバーによって順番に語られていく。その語りは、ひとりの視点だけではなく、4人であることによって、スピッツ全体の流れや当時の雰囲気を推し量れるのが面白かった。お互いに当時どう見えていたのか、そしてその胸の内が語られるのは、状況が立体的に捉えられて興味深い。

色んなバンドヒストリー本を読んでいて、各々、同じような試行錯誤、あるいは全く違う苦難があるのが面白くて仕方なかった。色んなところを行ったり来たりしながら、そのときの最上最善を見つけようともがいている姿は、どのバンドも同じなのだなと思った。
そして自分の好きなバンドのメンバーたちは、作詞作曲者の書いてくる楽曲に、いつもすごいと思う、ワクワクしている、楽しみにしているという気持ちを抱いているのが印象に残った。その曲を書く当人は自分の才能に言及しない。他のメンバーが痛感しているという図にグッときてしまう。

この『旅の途中』が出版されたのが2007年だ。今から12年前だ。ここからまた10年以上経っていて、今もスピッツは変わらず良い音楽を作り続けている。オリジナルアルバムをリリースし、ツアーがはじまる。ああ、すごいなあと思った。まだまだ旅の途中なんだ。

【今日の曲】
スピッツ「旅の途中」『三日月ロック』(2002年)

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