同じテーマを持った作品を同時期に観たこと、その2 文字の羅列がもつ魔力

以前「同じテーマを持った作品を同時期に観たこと」という文章を書いた。漫画、映画、映画のラインナップで、テーマは「捕食者と被捕食者」というお話だった。
今回もまた、同時期に同じテーマの作品を読んだ事象が起きたので、そのことについて書こうと思う。これは意図的に起こったことではなく、偶然、読み終わって振り返ったそのときに気づいたことだったのだ。

さて、今回の作品は、海野ハル著『絶対小説』と、森見登美彦著の『熱帯』である。
まずは『絶対小説』から書こうと思う。この作品はウェブで公開されていたものを読んだのだ。夢中になって読み進めた物語である。内容をざっくり書くと、新人作家と文豪の幻の原稿、そして「物語」のお話である。虚実入り乱れ何重構造にも展開する物語はハラハラドキドキで、ライトノベルの要素も見事に落とし込んだ作品である。そのため、ぐいぐいと物語にのめり込ませる力があり、めくるめく展開に目が離せなかった。

一方の『熱帯』は、これまた幻の本を巡る人々のお話である。
森見さんといえば阿呆な大学生が七転八倒する話や、四畳半で遭難する話という印象があるが、一方で怖い話、不思議な話、うすら怖い話の作品も多く書かれている。この『熱帯』という作品は、どちらの要素も上手く混ざった作品だと思う。阿呆な大学生が出てくるわけではないが、ユーモアも込められていて面白い。森見作品には、「森見」という人物がそのまま出てくることがあるのだが、この作品も同様だ。こういう要素は、手塚治虫的で結構好きなのである。
この『熱帯』という物語もまた、世界が多角的視点から眺められ、何重構造にもなって書かれたお話である。キーワードは「千一夜物語」だ。この『熱帯』を読んでいたら、原典を読みたくなった。
とくに『熱帯』のなかで語られる「文字の羅列」が持つ意味について深く心に残っている。
私なりの言葉で表わすと、今これを読んでるあなたは、今私が思っていること、頭の中にあったことを知っていく。それがとても不思議に思えてならないということだ。そして書き残された文章というものは、ともすれば何十年、何百年、何千年と残っていく可能性を秘めている。その人間が生きる時間より長く生きていくかもしれない。それは色んな作品に言えることではあるけれど。

文字の羅列がもつ魔力に魅了された人間がここにも一人。

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