『東京、音楽、ロックンロール 完全版』という本は

『東京、音楽、ロックンロール 完全版 』(ロッキングオン、2011年)は、フジファブリックのボーカルギターで作詞作曲を担っている志村くんの日記とインタビューをまとめた書籍である。完全版、というのは、一度発売されたこの書籍に、追加収録が行われたのだ。

この本、本当にすごい。

志村くんの日常、そのとき作っていた曲の話、ライブの話、妄想、いわゆる業界の裏話などが彼の目線で、彼自身の言葉で綴られている。その当時、自らが綴った言葉に対して、本当はどういう事情だったのか、どういう気持ちだったのかが月末で振り返られているのも最高に面白い。こう書いてあるけど、本当はどん底の気持ちだった、空元気だった、とか要約するとそんなようなことも赤裸々に語られているのだ。それはきっと、この振り返りインタビューが行われたときには、その暗黒期から抜け出していたこともあったのだろうと思った。当時の苦悩も淡々と語るのがとても志村くんらしい。

インタビューの場合、その言葉はインタビュアーやテキストを書く人間のフィルターを通している。そもそも対人の時点で、放たれた言葉は外に向けられる性質を持つと思う。だからこそ、日記、という媒体がまとめられた本書は、仲介が少ない時点で、より密接で率直な言葉でもあると思うのだ。
本当に貴重で読み応えのある本だ。面白おかしく、ときに胸が苦しくなり、ときに感動し、ときに微笑ましい。
もちろんインタビューはインタビューで、真剣度というのだろうか、どっしり重いものがドンッと伝わってくる。それは日記みたいに日々のことを1日1日綴っているからではなく、長い時間まっすぐ語ったことによる質量があるからだろう。姿勢を正されるような、自分では「普通の人間だ」なんて言ってる尊敬するミュージシャンの、到底普通の人には持つことの出来ない覚悟が伝わってくる。

分厚かったページが、残り少なくなっていくにつれて、読み終わるのが名残惜しく寂しい気持ちになっていく。その一方で、志村くんは苦悩から抜け出しきらきらとした楽しげな日々を過ごしていくような変化を感じるのだ。この本を読んだあと、心底読んで良かったと思った。フジファブリックを好きになれて良かったと思った。
志村くんの大事なメンバーは、今もこうしてフジファブリックを大切にしているよ。そんなことを思ったのであった。

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