摩訶不思議なサンタ漫画『ブラックナイトパレード』

『ブラックナイトパレード』(著:中村光、集英社)という漫画をご存じだろうか。中村先生ならではのギャグと、今までの作品とは毛色の違うシリアスさが見所の1冊だ。

この本は、『荒川アンダーザブリッジ』や『聖☆おにいさん』の著者、中村光先生の作品だ。中村先生はストーリーとギャグの配分が絶妙で、『荒川アンダーザブリッジ』を初めて読んだときは、こんな漫画見たことない! と新鮮な衝撃に襲われた。漫画を読んでいて、あんな声を出して笑ったのも初めてだった。個人的には亀有病を発症する回で腹がよじれるほど笑った。
ギャグ漫画、と言われると、ひたすら笑わせにくるような、ある意味不可解が襲い来る陽気な、ストーリーよりはネタ重視の作品というイメージが強い。
しかし中村先生の作品は、先が気になるような展開がある。それが新鮮だった。荒川でもたまにシリアスな場面が入るし、その雰囲気のまま展開するのかなと思ったら、常人には予測できないぶっ飛んだ場面に着地したりする。
そんな先の読めなさは今作の『ブラックナイトパレード』でも健在だ。

『聖☆おにいさん』が白だとすれば、まさに黒なイメージのこの作品、シリアス成分が荒川より多めだが、ぶっ飛んだ面白さがちゃんとある。『聖☆おにいさん』はどちらかといえばほのぼの日常的で、明確な敵位置にいるキャラクターも良いやつだったりする。一方こちらの作品では微妙にバトル要素もあり、不可解な怖さもある。また話の展開がグッとくる場面もあり、特に2巻の終盤は怒濤で、胸を打たれた。2019年12月現在、4巻まで刊行されているが、まだまだ作中で明かされていない未知や謎がいっぱいで、どう繋がっていくのかも今後楽しみである。

中村先生の描く主人公は、スペックは有能で、普通の社会だったら周りから羨望されるような設定なのに、変人に囲まれるせいで不遇な目に遭い右往左往するという人物の印象がある。『ブラックナイトパレード』もしかりだ。特別な宿命みたいなものがあるかもしれず、それにあたって能力が付加されている人物を貶めるのが上手いとでも言うのだろうか。そういう主人公のダメさのおかげで、穿った目線でなく読めると思う。

この作品の主題のひとつは悪い子供のところにくる“黒いサンタ”だ。さてはて、皆の元にはどっちが来るのだろう。

【今日の曲】
フジファブリック「TEENAGER」『TEENAGER』(2008年)

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