小説『キッチン』を読むときには、ハナレグミがよく似合う

『キッチン』(吉本ばなな、2002年、新潮社)を読んだ。名前はそこかしこで聞いていて、いつか読んでみたいなあ、とぼんやり思っていた本のひとつだった。
そして、読み終わったのである。
私は、本を読むときに音楽を流していることがよくある。SPECIAL OTHERS ACOUSTICが定番なのだが、この本を読むときはハナレグミをチョイスした。
なぜかといえば、キッチン繋がりで「家族の風景」を流そうという安直な思いつきである。
そしたら、これがまあ、ビックリした。
あまりにも似合いすぎていた。
穏やかで透明な永積くんの声、外は暗くなっていて窓から漏れ出るような家の灯、ゆったりとした日常のテンポ。一方の本文は、きれいでどこか詩的な印象すら受ける文章、心の揺らぎ、可愛らしさと底みたいな色、ふたつの表現が上手く絡み合って、するすると読書がすすんだ。
他にぴったりだった曲は「光と影」「ハンキーパンキー」「おあいこ」などだ。「光と影」なんか似合いすぎて、のたうちまわった。ちなみに、太陽の永積くん(「オアシス」とか「明日天気になれ」とか)は、本文との温度に差がありすぎるので避けた。

さて、この物語の感想を綴ろう。
うわあって声を出したくなった。呻きたくなった。文章に激しく共鳴、共振したよう気持ちに度々襲われた。
なんで私しか知らないと思っていた言葉がここに書いてあるのだろう、と思った。
そういう自惚れを沢山抱いて生きているのだけれど、そういう自分の中に大事に抱いていた物事がピタリと示されているときに、私はその作品に心底惚れてしまう。だから、BUMPが好きなのだ。そして、その大切だと思う宝箱に、宝物が増えたわけである。

あと印象に残ったのは、表現の美しさと絶妙さだ。その気持ちを書くにはその言葉がぴったりだ、という文章なのである。それと情景描写が素敵だった。情景描写の良さについては「『赤毛のアン』から続く一連の物語を辿ってきた」で書いたような経緯で目覚めたのだが、胸を掴むのはいつも心揺り動かされる光景を与えてくれる文章なのである。
この作品が世界中のたくさんの人々に読み継がれたのかと思うと、私は暢気に救いを感じたのだ。

この物語に書いてあることが、私の知りたかったことだと思った。
そして、穏やかな場面にはゆっくり明るい曲を、楽しい場面には愉快な曲を、悲しい場面には静かで染み渡る曲を、そんな風に音楽のそばにいながら読書するのもまた素晴らしい時間なのである。

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