最初に書いておきたい。この映画は、フィッシュマンズをよく知らなくても、特に、バンドヒストリーが好きな人、バンドの物語が好きな人にもぜひおすすめしたい映画だった。
なぜなら自分がそうだったからだ。そしてまんまとフィッシュマンズのことを好きになっている。
映画を観る前の私のフィッシュマンズ知識は、スカパラのドラム欣ちゃんがやっているバンド、『空中キャンプ』だけなんとなく聴いたことがあった程度だった。それでも、なんだか観ておかなければならない気がして、そして今、映画館に足を運んで心底良かったと思っている。
上映館が限られており、回数もそれほど多くないため、もし観られる場所があるなら早めに足を運ぶことをおすすめしたい。
映画を観たあとは、Fishmansに熱狂したような気持ちになっていたし、バンドのヒストリー本1冊読んだ程度には詳しくなった感じがある。
あと、パンフレットを購入することもぜひすすめたい。映画パンフにしては少し高めかもしれないが、読み終わったあと、買って本当に良かったと思った。
理由は後述する。
また、ネタバレ云々のタイプの映画ではないけれど、一応この映画の心臓部というか、予備知識なしで観た方がいいんじゃないかという部分は末尾に分けて書くことにする。
映画『Fishmans』のだいたいの概要
フィッシュマンズ(Fishmans)は、ボーカル、ギターの佐藤伸治が中心となり結成されたロックバンドである。
映画では、フィッシュマンズの当時の映像、ライブ、レコーディングの様子などから、バンドメンバーおよび過去メンバーの現在インタビュー、関係者、所縁のあるミュージシャンのインタビューなどで構成されている。基本的に時系列的に進んでいった印象だった。使われる場面の選択が丁寧で、鑑賞後はフィッシュマンズと一緒に時代を過ごしたような感覚になる作品だった。バンドドキュメンタリーでは普通あっさり流しそうな場面もちゃんと丁寧に追っていて、徹底的にフィッシュマンズに向き合ったんだな、と感じた。
ボーカル、ギターでほぼ全ての作詞作曲を担当していたサトちゃんこと佐藤伸治は、もうこの世界からいなくなってしまったのだけれど、過去の映像で見る彼と、関係者たちが語る彼の姿はどこかギャップがあって、それが面白かった。
映画を観た感想
鑑賞後は一緒に長い旅路を歩んだ気分になった。これは映画館で観たい映画だな、と思った。音が身体を包む感じがたまんなかった。あと、完全に余談だが、永積タカシの声を映画館で聴けるの、良かった。
また、上映のなかで、CLUB QUATTROの映像が流れるシーンがあったのだが、同じ階のすぐそこ〜〜〜!!!と興奮した。臨場感がある。
ロックバンドにも音楽にも全く興味ない、という人にはあまりすすめないが、フィッシュマンズに限らず、音楽雑誌や何らかのバンドヒストリー本読むの好きという人には特に観て欲しいなあと感じた。
確かにフィッシュマンズのヒストリーはフィッシュマンズにしか存在しないが、やはりどこか自分が大好きでずっと追っているバンドとも通ずる何かがあって、それが自分のなかで、ない交ぜになる感覚が面白かった。ああ、たしかにバンドにはこういう時期がありそうだ、という場面もあった。初期の雰囲気、中期の雰囲気、それはどこかで見たものでもあったと思う。
また、過去の映像と現在のインタビューでの姿の差異、それぞれの年を経た姿が印象的でもあった。若い頃と変わらない部分、変わった部分が映像で映し出されるとこんなに不思議な気分になるんだなあと眺めた。
個人的に映画のなかで一番好きだった場面は、佐藤さんがペットボトルを持ちながら歌っていたシーンだ。音楽の幸福が詰まっていたと思う。
パンフレットの話
映画を観たあと、欲しいと思っていた情報以上のものが詰まった素晴らしいパンフレットだった。まず、10inchレコードサイズというのが粋だ。でかいけど。レコードの収納コンテナに入れようと思う。
そして、この映画は、もしかしてパンフレットを読み終わったときに完成するんじゃと思うほど、パンフレットの内容がめちゃめちゃ良かった。
フィッシュマンズの歴史が分かりやすくまとまっているのはもちろん、なぜこういう映画の構成になったのかということや、映画化の経緯、欣ちゃん、郁ちゃん、永積くん、UAさんのトークセッションなど読み応えのある内容となっている。
手嶋監督と川村ケンスケさんの対談では、フジファブリックという文字が出てきてビクッとしてしまった。ずっと映画観てるときも、あともフジのことはバックグラウンド再生みたいに頭の片隅にあった。だからドキッとした。
また、スタッフ座談会やスピッツの草野さんの寄稿も印象的だった。フィッシュマンズは本当に多くの人から愛されているバンドなんだなと思った。
ひとつだけ、書いておきたいことがある。
満腹までご飯食べた後に観るべきではなかった。今後は腹八分目を心がけたい。
映画『Fishmans』、色んなバンドを好きでいる身として、いっぱい収穫のある映画だった。
【以下ネタバレ】映画の構成に関わる感想
冒頭で書いた、予備知識なしで観た方がいいんじゃないかという部分について書き残したい。
終盤の場面、フィッシュマンズはベースの譲さんが脱退し、佐藤さんと欣ちゃん2人になってしまう。そしてその後、佐藤さんもいなくなってしまう。
時は現在のシーンとなり、欣ちゃんは日比谷野外音楽堂にてインタビューを受けている。誰もいない会場のステージで、たったひとり佇んで、誰もいない客席を見ている背中が映される。
この映画のなかでスカパラは全く出てこないが、それでもやはりふと過る。スカパラで大人数に囲まれてドラムを叩く彼は、フィッシュマンズではひとりなんだ、ということに思い至る。その自分の中で勝手に立ちのぼった対比に、また胸を締め付けられた。それでも、そんな気持ちもパンフレットを読み終わった後には救われていた。
この映画を観る前と観た後の自分が、ある種別物になっている感覚がある。
そういう作品は、やっぱりおすすめしたい。
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