アジカンのゴッチが宮沢賢治をリミックス『銀河鉄道の星』

今回は、秋の夜長にぴったりな本を紹介しようと思う。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのギター&ボーカル、後藤正文が宮沢賢治の物語を再編集した書籍『銀河鉄道の星』(ミシマ社、2018年)だ。
この本には、宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」、「よだかの星」、「双子の星」の(一)、(二)が収録されている。

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『銀河鉄道の星』の簡単な概要

ミシマ社のHPにある本の紹介を読めばおおよそのことが分かる。

僕が贈りたいのは、「はじめての読書」になるような本でした。(中略)僕が渡したかったのは、絵本と文芸書の間をつなぐような、ある程度の文章を読んで何かを感じるという体験だったのです。

『銀河鉄道の星』宮沢賢治 (著), 後藤正文 (編)、2018年、ミシマ社、p.192 あとがきより

『銀河鉄道の星』と『銀河鉄道の夜』の違いについては、次項に詳しく書くが、簡単に言うと“読みやすさ”だと思う。『銀河鉄道の星』は、話の本質は変わらず、すうっと物語に入っていける印象を受けた。丁寧にルビが振ってあるので、子供でも読みやすいだろう。
『銀河鉄道の星』には、牡丹靖佳さんの素敵な挿絵とともに、宮沢賢治の紡いだ星にまつわる物語が収録されている。

『銀河鉄道の星』を読む前の夜

先にもともとの原文を読んでおこうと、家にあった集英社の『銀河鉄道の夜』を手に取った。こちらは、「やまなし」「いちょうの実」「よだかの星」「ひかりの素足」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」の5編が収録された文庫本だ。
一番読みやすかったのは「よだかの星」だ。話の流れを知っていたというのもあるかもしれないが、文章が他の話に比べ分かりやすい気がする。
一番印象に残った物語は「ひかりの素足」だ。読後はずっしりした気分だった。この物語の情景がたまにふと思い出される。
最後の「銀河鉄道の夜」は、ある夜に電車のなかで読んだことを覚えている。寂しくきらきらした読後感だった。

当たり前のことだが、原文は文体が昔のものなので、わりと読みにくい部分がある。言葉とはこんな変化するものなんだなあと思った。また、度々注釈があり、本の最後の方にまとめて説明項目があるので、確認のために行ったり来たりしなければならない点が、読書の流れが途切れ途切れになってしまうなあと感じた。そして、途中原稿のない部分があるため注意書きも入る。この点に関しては『銀河鉄道の星』に挟まっていたペーパー『ミシマ社通信 vol.78』で、担当編集さんが「ページ抜けなどがあり、どうしても没入していたのが途切れてしまいがちでした。そういうちょっとした引っかかりがなくなり、どっぷりと賢治ワールドに浸ることのできる作品が誕生しました」と語っているとおりである。

上記のような、ある種のとっつきづらい部分が解消されたのが『銀河鉄道の星』なのだ。

ただの思い出話と感想文

『銀河鉄道の夜』から星へ

『銀河鉄道の夜』自体は、2017年10月1日から読みはじめた。なぜこんな明確に覚えているかというと、積んであった文庫本を持っていったのが、レキシの野外ワンマンライブ『お城でライブができる喜びを皆で分かちあおう〜あれ?大阪、いつの陣?〜』だったからだ。グッズ列に並んでいるときに読みはじめた記憶がある。そこから度々続き読むか~と思い出しては、少し読みすすめ、3年越しで『銀河鉄道の夜』に辿り着いたのだった。買った本だと返す期限とかがないので永遠に積んでしまうあるあるだ。『銀河鉄道の星』が出版される前から文庫本を持っていたのは、僥倖だなと思った。なぜ買ったかは全然覚えていない。名作読みたいキャンペーンだったかもしれない。本来はこんな時間のかかる本ではない。手に取ればあっという間なんだんだけど。
ちなみに『銀河鉄道の星』はホームタウン静岡公演のときに買って、昨日の夜、一気に全部読んだ。

『銀河鉄道の星』のレビューというか感想文

『銀河鉄道の星』は原作の雰囲気はそのままに、現代の人にもとっつきやすく編集の配慮がされているだけあって、とても読みやすい。
また、今だとこの台詞違和感があるな、と思う部分や、漢字に関しても、現代に使われているものに直されているため、違和感に立ち止まることなく物語へ没頭できた印象があった。文字を読んでいたところにカラフルの挿絵がきたり、物語の情景を想像しやすい絵が見出しについているのも良い。
言葉の変化は早いから、読みやすいようにリミックスされる、というのはとても有意義だ、なんてハッとするものがあった。確かにこの本は、読書の入り口にぴったりだ、とも思った。きっと、気づいていないだけで他にも色んな配慮や工夫が作品のなかに込められているんだろう。
あとがきの文章で、ゴッチが文章を打ち直しているとき、

人気のない冬の朝の透き通った空気を吸い込んだときの、肺の奥がひんやりとして清々しくなるような、ひとりぼっちのまま世界をひとりじめにしているような、そんな瞬間に身をひたし続けているような気分でした。

『銀河鉄道の星』宮沢賢治 (著), 後藤正文 (編)、2018年、ミシマ社、p.194

と表現しているのに、うわ~分かる、と頷きすぎて首がもげるかと思った。宮沢賢治の物語の読後に抱いた感覚が言語化されていた。しかしこの部分、今読んでも歌詞じゃん……と思う。
宮沢賢治のシンとした空気感は、この人のお話を読んだときにしか感じない独特のものだなあと印象に残っている。
しかして、あとがきを読んで、ゴッチの書く文章、本当に好きだなと痛感したのも面白かった。クスッと笑える感じもあって。

宮沢賢治 (著), 後藤正文 (著) (編集), 牡丹靖佳 (イラスト)

『銀河鉄道の星』で素敵な秋夜を過ごしてみてはいかがだろうか。

【今日の曲】
ASIAN KUNG-FU GENERATION「アフターダーク」『ワールドワールドワールド』(2008年)

ゴッチ(Gotch)こと後藤正文の著書まとめ
アジカンのフロントマン、ゴッチが書いた本についてまとめました。エッセイから異色な作品まで、それぞれどんな本かやオススメも軽く紹介しています。

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